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シュラフィールド物語 第1話

『試しの迷宮』

−1−
 「ねぇ、サリアに『試しの迷宮』ができたんですって。いってみない?」
 ここはアゼリア大陸の西のはずれ、アンカス公国の首都スアルド。その繁華街にある
冒険者達の宿屋、ファンタム・イン。そこの酒場である。
 発言者は、落ち着いたオレンジ色のローブをまとい、豊かな黒髪をおさげに結った
15・6の少女である。その黒い瞳は、小犬のように輝いている。名前は、ディナ。
その見た目からは推し量るのは難しいが、れっきとした実力のある魔法使いである。
 「『試しの迷宮』っていうのは、魔法帝国の領主が作った迷宮で、マジックアイテム
が手にはいるらしいのいよ。帝国のマジックアイテムよ!」
 「へー、珍しいじゃん」
 ロブスターに取り組みながら、興味なさげに相づちをうったのは、僧侶のマリクトで
ある。まだ少年の面影を残す青年ではあるが、その鋭い目付きは数々の修羅場をくぐっ
てきていることをものがったっている。
 「何か、苦労しそうだな。まあいい、行こう」
 今度の発言者は、二人とは対象的な人物である。
  年の頃は30前半、堂々とした体格、悠然とした態度は、誰の目にも歴戦の勇士であ
ることを一目で印象づける。穏やかな瞳を持つ戦士。彼の名は、ストライバーといった。
 「お供します」
 間髪いれずにこう言ったたのは、自称ストライバーの一番弟子の、ホーンである。
ちなみに「不肖の弟子だろ」とは、マリクトの談である。
 「私も、行かせて下さい」
 最後に、ストライバーにそう言ったのは、線の細い少女である。名前はジュディス。
彼女は、生まれて間もない頃ストライバーに拾われ、彼の知合いの教会で育てられた。
僧侶として成長した彼女は、ストライバーの後を追って冒険者となったのである。
 ストライバーは、少し困った顔をしたが、しょうがないという具合いに肩をすくめて
みせた。
 「よし、きまりだ。さっそく明日、出発することにしよう」
 即断即決が、彼のモットーであった。

 3日後、彼らはサリアの町についた。さっそく「迷宮」に受付に行くと、冒険者の
長蛇の列が出来ていた。
 「うげー。ディナ、おまえのコネでなんとかならないのかよ」
 何事につけ、時間を無駄にしない主義のマリクトが、さっそく不平をならす。
 「ん、ちょっと待ってて」
 ディナの祖父は、この国の魔法ギルドの幹部の一人である。信じ難いことではある
が、彼女はれっきとした「お嬢様」なのである。(ちなみに、名門貴族の婚約者まで
いる)
 「明日、朝一で来てくれって」
 列をかき分け、泳ぐように受付に向かって10分もしないうちに、彼女は戻ってきて
言った。

 翌朝、受付を済ませると、パーティは「迷宮」に足を踏みいれた。天井が魔法の淡い
光を発し、ランタンを使わなくても十分に活動できる明るさである。しばらく進むと、
少し大きめの部屋に出た。反対側の壁には、大きな扉があり、部屋の中央には派手な服
を着た道化が立っている。
 「ようこそ、試しの迷宮へ。あたしは、案内人のクラウンです。簡単にこのゲームの
説明をさせていただきます。
 ルールは簡単。入口から入って、出口から出るだけ。どうです、簡単でしょ?」
 道化は、いかにも面白い冗談だといわんばかりに、腹を抱えて笑ってみせた。
 「それと、迷宮のあちこちには、このような」
 と言って、帽子を持ち上げると、中からエメラルドのついた鍵を取り出した。
 「ルビー、サファイア、エメラルドの3つの鍵がございます。それらを全て集めて、
最後の部屋までたどり着いた方々には、スペシャル・ボーナスが用意してございます。
 創造主は公平な方ですので、どのルートでも手にはいるチャンスはございます。
では、心構えが出来ましたら、そちらの扉からどうぞ」
 道化がそういうと、奥の扉が音もなくゆっくりと開いていった。

 「っだー!」
 ホーンは、すってんきょうな奇声をあげると、頭を引っ込めた。うなりをあげて、
壁から飛び出てきた刃が、髪をかすめる。その慌てぶりを見たマリクトが、ジュディス
の非難がましい視線を無視してゲラゲラ笑う。
 ストライバーは、さすがに笑う気になれずに、狭い通路をのぞき込んだ。
 道化のいた所から二つ目の部屋で、パーティはすでに罠にひっかかっっていた。
その部屋には、一枚の壁掛けがかかっており、それには「この部屋には、かくし通路が
ある」と書かれていた。
 無視して進めばいいものを、冒険者の習性でついつい壁掛けを持ち上げると、そこに
ぽっかり開いたかくし通路を見つけてしまった。しかも通路の先にある小部屋に、金の
壷があるのがわかると、どうにも手にいれなければ気が済まなくなってしまった。
かくして盗賊の心得があるホーンが、その狭い通路に潜り込むことになった。しかし、
その道のりは短くて長いものだったのである。
 「一歩目は足元。二歩目は頭。なぁ、おい、三歩目はどこだと思う?
こりゃ、命がいくらあっても足らんな。」と、笑いながらマリクト。
 「笑い事じゃなーい」叫び返しながら、ホーンは罠を外そうとするが、
 「師匠ーっ。外せませーん」
 「いいぞ、別に行かなくても」ストライバーが、答える。
 「いえ、行きます」
 ホーンは、わずか1.5メートルの通路を、1時間もかけて、汗だくになりながら、
何とか突破した。すでに体のあちこちには、打ち身や切傷ができている。
 「その壷がくさいぞ」と、ストライバー。
 「そいつが最後のトラップじゃねぇのか」と、マリクト。
 「いかにも。という感じよね」と、ディナ。
 彼らの名誉のために断わっておくが、別に彼らは薄情だ、というわけではない
(一人、怪しいのもいるが)。戦士が剣を取って敵と戦うのと同じように、盗賊は体を
はって罠を外すのが、果たすべき役割だと考えているだけである。
 ホーンが、慎重に壷に手を伸ばすと、壷をのせた台座からガスが吹き出し、慌てて
飛びずさった。ガスが薄れるのを待って、もう一度手を伸ばすと、今度はガスが出て
こない。
 「打ち止めか」
 呟きながら、ゆっくり壷を持ち上げると、その下に金の指輪があるのを見つけた。
 いいよな、別に。
 ホーンは、何気ない動きで指輪を取り上げると、皆に気づかれないようにポケットに
押し込み、何事もなかったようにもとの部屋に戻った。
 「誰か、ケガをなおしてくんないの?」
 「まだ、大丈夫だろ」と、ストライバー。
 「私が、人のことを気にすると思うか?」
 と、偉そうにマリクトが言うと、さすがにホーンがあきれて、
 「あんた、何しにきたの。ここに」
 「いや、みんなが行きたいな、って言うから。だいたい、治すならジュディスがいる
じゃん」
 「私の力では、そう何度も治すことは出来ませんが」
 「いや、使え、とは言わないよ。むしろ、使うな、と言いたい」
 「ホーン、まだ大丈夫だろう。まだ先は長そうだ。魔法はなるべく温存しておきたい
、いいな。では、さきに進むことにしよう」
 ストライバーは、その場をまとめると、先頭にたって歩き出した。

 その部屋を出て少しあるくと、通路は右に折れやがて突き当たった。突き当りの左手
には、同じ様な通路がまっすぐ続いている。右手には、取っ手もない鋼鉄の扉があり、
西方語で何やら書いてあった。
 「この扉を開けたくば、謎に答えよ、か。面白そうね」
 魔術師らしく、こうしたゲームの好きなディナが楽しそうに言う。
 「角持つ頭に、人の体。獣と人の名を持つものは何か、か」
 「ケンタウロスじゃないの」と、ホーン。
 「あれには角がない」と、マリクト。
 「ミノタウロス?」と、ディナ。
 「ミノタウロスか?強いぜ」他人事のようにマリクトが言う。
 「とにかく開けるか。おいホーン、開けてくれ」
 「まず、治して下され。話はそれからですな」
 「チッ。えぇーい、じゃあ言うか。『ミノタウロス』」
 扉は、きしみながら廊下側にゆっくりと開いた。中には床一面に、銀貨や銅貨が散ら
ばっている。
 マリクトとディナは、用心深く部屋に入ると、ストライバーは、剣を抜いて部屋の
入口に立ち、何がおきても対応できる態勢をとった。マリクトは、銀貨に手を伸ばそう
としたディナを制止すると、手甲をはめたままの手で硬貨をすくいとった。
 「毒がぬってある、ってこともあるからな」
 そしてそのままその手を傾けると、こぼれた硬貨は床で跳ねて、澄んだ音を立てた。
 「本物だ。どうせなら、金貨でも置いててくれりゃいいのによ」
 マリクトがそう言った瞬間、扉が勢いよく閉まった。ストライバーは、間一髪部屋の
中に飛び込むと、一連の動作で剣を構えた。部屋の中央に忽然と、棍棒を持つミノタウ
ロスの巨体が現れる。あっけにとられたマリクトが叫んだ。
 「どうなってんだ?」
 扉の向こうからジュディスが、ストライバーの名を呼びながら扉を叩いている音が聞
こえる。だが彼は、あえてその声を無視し、目前の戦いに意識を集中させた。
 「ディナ、扉の前に下がれ。マリクト、距離をとれ。離れてろ!」
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