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シュラフィールド物語 第1話

『試しの迷宮』

−2−
 ストライバーは、即座に戦闘態勢をとると、ミノタウロスの注意を引くようにわざと
音を立てながら、大きなモーションで牽制した。
 ミノタウロスがその動きにつられると、ストライバーは間髪いれずに魔法の長剣で、
横なぎに切りつけた。痛みと怒りに猛り狂ったミノタウロスが、重い棍棒をストライバ
ーに振り下ろすが、彼は盾でその一撃をがっしりと受け止め、逆に踏み出したミノタウ
ロスの足に切りつけた。
 ミノタウロスはますますいきり立ち、丸太ほどもある棍棒を軽がると振るって、嵐の
ような勢いでストライバーにうちかかった。さすがの彼も攻撃を受けるだけで精一杯と
なると、ミノタウロスはさらに激しく乱打を加えた。盾で防がれる度に棍棒はささくれ
だち、周囲に破片を飛び散らす。
 マリクトは戦況を冷静に観察していたが、ストライバーが完全にミノタウロスの注意
を引き付けるのを見極めると、そっと近づいて戦闘に熱中しているミノタウロスの背中
に、骨も砕けよとばかりに愛用のメイスをたたきつけた。
 背後からの突然の衝撃に混乱したミノタウロスは、反射的に振り返ると同時にマリク
トを力任せになぎはらった。
 辛うじてブロックしたものの、マリクトの体は部屋の反対側までふっとばされた。背
中を強く打ちつけ、一瞬呼吸が止まる。遠くなりかけた意識を無理やり引き戻すと、マ
リクトはその場を転がるように離れた。その瞬間、うなりをあげた棍棒が、いままで彼
のいたところにうちおろされた。まともにくらっていたら鎧をつけていても、頭蓋を粉
々にされていただろう。
 ストライバーは混乱したミノタウロスの隙を見逃さず、躊躇することなく背後から一
撃を加えた。そしてミノタウロスの振り向きざまの一撃を難なくかわすと、両手にもち
かえた長剣をすさまじい勢いではね上げ、怪物の雄牛に似た首を胴体から半ば切断した。
 「ヒュー」
 床に座り込んだまま、思わずマリクトが感嘆のため息をもらす。
 「お見事、お見事。さーて、お宝をいただくとするか?」
  ジュディスは、何とか廊下側から扉を開けようとしていた。ストライバーを信じて
はいるが、やはり戦っている彼のことを考えるとどうしても不安になってしまう。華奢
な体を何度もたたきつけ、手がしびれるほどメイスで叩いても扉はびくともしない。
疲労と焦りが彼女をとらえかけたとき、鋼鉄の扉が静かに開いた。
 「無茶だよっ!」
 ホーンの制止の声も聞かずに、ジュディスは即座に部屋の中に中に飛び込んだ。
彼女の目に真っ先に飛び込んできたものは、しゃがみんで硬貨のよりわけをするマリク
トとディナの姿、次いで部屋の隅に寄せられたミノタウロスの死体、そして、
 「どうした?」
 まるで自分の部屋でくつろいでいるときのような、悠然としたいつもの調子のストラ
イバーの姿であった。
 ジュディスは、安堵感から涙がこぼれそうになるのを、ぐっとこらえながらストライ
バーの側に行くと、努めて平静な声をだして言った。
 「おけがはありませんか」
 「ないぞ」
 「でも」
 彼は、なおも心配そうな顔をしている彼女の肩に手を置き、力強く言った。
  「いや、こんなのは怪我にはいらん。まだまだ大丈夫だ」
 「…わかりました。無理はしないでくださいね」
 「じゃぁ、僕なおしてよ」
 安全であることを確認してから、ゆっくり部屋に入ってきたホーンが、二人の会話に
割り込んで言った。ジュディスが一瞬躊躇してストライバーを見ると、彼は言った。
 「まだ大丈夫だよ」そしてホーンに、「何甘えてんだ、おまえは」
 「だって、次もこんなのが出てきたら。それに罠だって…」
 「しょうがないな」ストライバーは、軽くため息をつくとジュディスに言った。
 「なおしてやってくれ」
 「はい」
 ジュディスが祈りの言葉を唱えると、ホーンの傷が驚異的な早さでふさがり始めた。
 その様子を見ると、マリクトが立ち上がって言った。
 「次はオレか。さぁ、やってくんな」
 さすがにストライバーも苦笑して、
 「こっちはまだ大丈夫だろ。それにおまえは、自分で治せるだろうに」
 「む。…とりあえず出口を探すか。やばくなったらすぐ出られるように」
 痛いところを指摘されたマリクトは、強引に会話を打ち切ると、また硬貨のより分け
に戻った。

 次に彼らを悩ませたのは、T字路に仕掛けられたうさんくさいレバーであった。その
T字路から左右にのびる通路の入口には重い鋼鉄製の格子が降りていて、壁にはそれに
対応するかのような黒と白の二本のレバーが設置されてた。
 「どっちかしら」ディナが、小首をかしげて考え込む。
 「黒が一見悪そうだけど、その裏をかいて何でもないんだろう」ストライバーが、
苦労人らしくうがった意見をだす。
 「黒だね」
 レバーを調べていたホーンが、レバーに紐を巻き付けるといきなり黒いレバーを下ろ
した。
 「わー、何もきかずにいきなり!」
 「さがれ、さがれー!」
 「なんで黒にこだわるのよ!?」
 叫びながらその場から飛びずさって身構えると、左側の格子がガラガラと上がってい
った。
 「ま、まぁ、予想通りよね。開くだけなら」
 「声がふるえてるぞ」
 無理に明るく言ったディナに、からかうようにマリクトがこたえた。
 「なによ、あなたこそ冷汗をふきなさいよ」
 「二人ともそのぐらいにしておけ」
 ストライバーが、二人の間に割ってはいるようにして言った。
 「無事に開いたんだ。どっちに行っても同じなら、開いた方に行くとしよう」
 彼がそう言って格子をくぐると、二人は気まずそうにそっぽを向いたまま歩き始めた。
 その後、ゴーレムの襲撃やいくつかの罠を難なくかわしながら、迷宮の奥へ進んだパ
ーティは、だだっ広い円形のホールに出た。天井はドーム状になっていて、床には砂漠
のようなサラサラの砂がひきつめてあり、反対側の壁には同じ様な通路がさらに奥へと
続いている。
 「蟻地獄じゃねぇのか」
 マリクトの言葉にうなずきながら、ストライバーが言った。
 「ホーン、ロープを結んでやるから行ってくれ。荷物は全部おいてけよ」
 珍しく殊勝に言いつけにしたがったホーンは、軽い身のこなしで慎重に壁に沿って
ゆっくりと歩いて、反対側の通路の入口にたどり着いた。
 「師匠。大丈夫です」
 「わかった。そのままロープの端を持っててくれ。軽いやつから順番に行かせる」
 二番手のジュディスが、無事反対側につくと、ディナがロープを体に巻き付けて砂地
に足を踏み出した。
 しかしディナがホールのほぼ中央に差し掛かると、いきなり彼女の周りに砂が走り、
巨大な長虫が姿を現した。驚いたディナの動きが止まると、即座にストライバーが飛び
出した。
 「しょうがねぇな」
 少し遅れてマリクトも駆出し、ディナが逃げる時間を稼ぐために長虫を牽制した。
 「もう、大丈夫です。早くこっちにきて下さい」
 ジュディスの声が聞こえると、二人は後ろを向いて一目散に通路に逃げ込んだ。
 重い鎧を着たまま戦闘した上に全力で走ったため、さすがに壁にもたれて喘いでいた
マリクトが、額に浮かんだ汗を拭いながら笑って言った。
 「オレって結構いいヤツだな。助けになんか行ったりして」
 「ここですかさず『これで借金は無しだ』とか言わないの?」
 調子にのったホーンの言葉に、マリクトはきっぱり答えた。
 「いや、そんなことは言わないよ。借りは借りだ」
 そして体を起こすと、ディナに振り向いて言った。
 「貸しは貸しだけどな」
 「わかってるわよ」
 「それじゃ、そろそろ先に進むとするか」
 黙って二人のやり取りを見守っていたストライバーが、優しく言った。

 通路をしばらく進むと、前方から子供の鼻歌が聞こえてきた。
 「ガキは嫌いだ」と、マリクト。
 ストライバーは、うなずいて剣を抜いた。普段子供好きのストライバーの、この意外
な行動に、全員が一瞬あっけに取られた。
 「こんな所にいる子供がただ者のはずがない。油断するのが一番危険だ」
 ストライバーの言葉で、自分たちの置かれている状況を改めて確認した四人は、抜か
りなく警戒態勢をとって彼の後に続いた。
 そのまま通路を進むと、机と八脚の椅子が用意された小部屋に出た。テーブルには、
人数分のゴブレットが用意されている。
 「折り返し地点までようこそ。この酒を飲んで、疲れをいやしちくれたまい!」
 テーブルの上で小人が、ゴブレットに葡萄酒をつぎながら言った。
 一パイン(約50センチ)ほどの体、つり上がった目と耳、そして背中についた一対
の小さな翼。
 「グレムリンよ」
 ディナが、ささやくように言った。
 「味見ぐらいするか」
 ストライバーとマリクトが、躊躇なく椅子に腰掛け、ゴブレットに手をのばすのを
見ると、あとの三人もそれに続いた。
 「創造主に!」
 ストライバーの音頭で乾杯すると、彼らは杯を口に運んだ。
 「うまいっ!」
 マリクトが、思わず感嘆の叫びを上げる。
 うなずきながらストライバーも、一気に杯をほした。一瞬、体中に酒精が駆け回り、
力がみなぎってくるような感じが心地よい。
 「どうだい?」グレムリンが、いたずらっぽく聞く。
 「飲みたかったらまだ飲んでもいいよ。かなり強いから、酔っぱらうかもしれないけ
どね」
 「もう一杯もらおうか」
 ストライバーが杯を差し出すと、グレムリンは嬉しそうになみなみとつぎ、彼が飲み
干すのを待った。しかし二杯目をあけても彼の様子に何の変化も現れないと、落胆して
言った。
 「なんて強い人間だい。まるでドワーフなみだよ」
 「何を期待してたか知らんが、がっかりさせてすまんな」
 立ち上がって、ストライバーは言った。
 「さて、そろそろ行くとしようか。
 「あぁ、そりじゃ。がんばっちくりたまい」
 不機嫌な様子をかくそうともせず、おざなりに手を振るグレムリンを残して、彼らは
なお迷宮の奥へと進んで行った。
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